前回、前々回と広報における情報開発力について書かせていただきました。結局のところ広報活動の中で最も主要な部分であることは間違いないのですが、今日はその中でも少し志向を変えて“ストーリー性”について書いてみます。
5月25日(日) 日経新聞 10面 「電子版セレクション」より
同記事は、ANAが4月25日から発売した羽田―那覇間の深夜便が人気を集めている事について書かれたものです。その便の大きな特徴としては、深夜に運航する貨物便の空いたスペースへ旅客を搭乗させるというもので、その実現に向けて克服すべきいくつかの難題をくぐり抜けていくストーリーを中心に展開されています。
記事をかいつまんで見ていくと、まずは実現に向けて克服すべき問題点とその改善案の羅列から。
・搭乗数と手荷物の制約。→その克服のために機体にある座席数の3分の1以下の座席のみを旅客用する。
・飛行機の重量バランス。→通常の旅客機は機首を上に向けてバランスを取るが、前方に乗客が多いと難しくなるため、機体前方の席は販売しない。
・情報システムの難題。→チェックインのシステムが「チェックインの受付は搭乗当日」という仕様でしか動かないため、経理システムが売り上げを前日に計上してしまう。→結局この件はシステムの改善を諦め予約者リストを紙印刷し、乗客の持つ予約控えと照合して搭乗券を渡すというアナログ式の解決方法を選んだ。
ここまでする背景について
・ボーイング747機の退役による輸送力の減少とANA国内線発着枠は満杯で増便が難しいという社内事情から苦肉の策としての運航。
好調の理由
・最安で片道9,900円という安さ。深夜貨物便と相乗りだからこその戦略的な値付けが奏功。
この記事の大きな特徴としては、背景と好調の理由が極力抑えられ、既に実施しているサービスでありながら、実施前の運航に至るまでの紆余曲折・様々な難題を克服していくストーリーを中心に展開されている点です。これにより、サービス開始以後、既に1ヶ月経って新鮮味が薄れる部分を補いながら、この便で今夏に勝負したいANAの意気込みを強く感じられます。
また、問題の根底を解決出来ずにアナログ式に切り替えることで対応した情報システムに関する情報は、内部事情についても述べており、最新式のシステムを導入できなかったマイナス面を隠さず伝えて、手動に切り替え対応何とか対応するエピソードを入れてマイナス面を補っています。
このような詳細な情報を的確に外部の記者に伝え、ストーリー仕立てで書いてもらうには、社内の情報を熟知した広報担当者と信用の置ける記者の存在が欠かせません。
広報マンの端くれとしては、クライアントさんにとってマイナスと取られかねかい部分を記者さんに提供することは確かに難しいと感じざるを得ませんが、正確に伝えることと、マイナスをプラスに転化させる代案を準備することで記事に客観性を持たせることに成功しています。
このような客観性とストーリー性を兼ね備えた情報開発を、なるべく短時間に行うことが出来るのか否か。広報支援の質が問われる部分でもありますね。
それでは本日はこのへんで。私も今夏は沖縄に行きたくなりました(*^_^*)