ソーシャルメディアとは、ネット上で人々の社交を支援するメディアのことで、正式名称は、ソーシャル・ネットワーク・サービスという。
その自然な浸透度の高さから、ソーシャルメディアは最近誕生したものの様に思われがちだが、実はその歴史は意外と長い。
日本においても、インターネットを遥かに遡る80年代後半から、その草分け的な存在としてニフティサーブ、PC_VAN、アスキーネット等大規模な会員数を要するパソコン通信サービスが誕生している。
しかしながら、そのいずれもがインターネットの一般的な普及により衰退し、現在はほとんど消滅してしまっている。
その後は様々なソーシャルメディアがインターネット上に誕生した。
Yahoo掲示板、2ちゃんねるといった「匿名掲示板」、個人ブログから、友人同士で繋がることが出来るmixiやFacebookといった友達同士で繋がる「SNS」、twitterの様に160文字で気軽に個人の想いを「つぶやき」という形で発信出来るものまで実に多種多様である。
ソーシャルメディア全体の利用者数は、インターネット利用者数の76.3%。実に7000万人近くが利用している計算となる[『インターネット白書 2009』財団法人インターネット協会監修、インプレスジャパン] 。
おそらく、インターネットを利用している人で、ソーシャルメディアを利用していなくても、見たことがない、あるいは存在を知らないという人は非常に少数派であろう。
(ソーシャルメディアという名称は知らなくても、2ちゃんねるやインターネット掲示板の単語が意味するところを知らない人はまずいないはずだ。)
企業経営との関係
このように、国民への浸透度が深いソーシャルメディアを、どのようにマーケティングに活用するのかというテーマは企業にとって非常に重要なものとなってきている。
しかしながら、ソーシャルメディアに打たれる広告は、通常に比べて非常に反応が鈍い。
日本における一般的なバナー広告のクリック率は、0.09%[Global Benchmark Report 2009,Eyeblaster Benchmark Insights,2009]。ソーシャルメディア先進国のアメリカでも0.004~0.13%[『湯浅鶴章のIT潮流』]と極端に低い数字を示している。
利用者同士の会話に、無関係な企業の広告が唐突に表示されることに対して消費者の反応は非常に冷やかである。
考えて見れば当然のことで、掲示板の中に無関係な広告があっても、まずクリックする気にはならないだろう。
また、口コミの発信者をお金で雇い商品を宣伝させるサクラ行為に対しては、非常に激しい反発を見せる。
強引な介入は、強い反発を招き炎上する例は数知れない。
ソーシャルメディアをマーケティングに活用することは、ソーシャルメディアを上手く使いこなせるか否かにかかっているといえる。
非日常と日常
ソーシャルメディアは、人々が情報発信することで作り出されるメディアである。コミュニケーションや会話といってもいい。
それは一方的なものではなく、会話の中でのやり取りから、新たなつながりや価値、思わぬアイデアが生み出される。
つまり、裏を返すと、読まれなければ、もしくは書き込まれなければ全く価値の無いものであるともいえる。
友人とテレビ番組見ている最中に、CMを身を乗り出して見る人が少数であるように、掲示板のやり取りの中で脇に見えるバナー広告をクリックして見たい人はそうはいないはずだ。
同様に日常生活の中での会話やコミュニケーションに置き換えると、熱心に企業の商品を勧誘する人と深い友人づきあいをしたいと思う人もそういないだろう。
むしろサクラにより、企業のブランドそのものに不信感が沸くはずだ。
ソーシャルメディアは、インターネット上という非日常の仮想空間の中でありながら、利用者が日常的な現実世界での出来事をやりとりして楽しむ、これまでにない形態のメディアといえる。
視聴する側もキーボード1つで参加者にもなれるわけだ。
そこに一方的な広告やサクラによる宣伝は返って逆効果であるばかりか、強い反発を招いて炎上する恐れもある。
しかし、「広報活動」「企業全体のブランディング」「キャンペーン利用」にソーシャルメディアを活用し、企業PRの手段として重視している企業は多い。
外部のソーシャルメディアを利用するのではなく、自社サイトにソーシャルメディアを開設し、消費者同士、あるいは企業と消費者との間でファンコミュニティを結成し、「スポンサーソーシャルメディア」あるいは「企業コミュニティ」と呼ばれる新しいタイプのマーケティング手法を確立し、収益化していくことが本コラムの骨子である。