ネットワークのハブ
企業に対する消費者の視点は非常に冷たい。戦略的に大衆を操作しようとする存在。
または、お金のためなら何でもやりかねない存在という視点に晒されがちだ。
その主たる要因として、企業で働く人の多くが、自社や商品について愛着や強い想いを有し、事業を通じて社会に貢献する!という強い意志がありながら、市場にはあまり伝わっていないことにある。
しかし、企業は当然消費者側の意向を深く知りたいと思っているし、実際に消費者との橋渡し役を担うことが可能な存在である。
なぜなら、企業とは事業を通じて、社会に向けて商品やサービスを提供する集合体であり、個人とは比較にならないほど強力な組織力を有しているからだ。
企業は商品・製品についてのノウハウや販売方法等様々な形で、社会と深くつながっている。
その様な企業のコミュニティに企業の関係者及び消費者が集い、対話を重ねることで、お互いの関係はより親密かつ直接的なものとなれる。企業コミュニティが活性化することにより、企業の存在自体がネットワークのハブとなる可能性を秘めている。
企業コミュニティの出発点
企業コミュニティを開設するに当たり、どのソーシャルメディアから自らの価値観を発信していくのかという点は、非常に重要なポイントである。
どのエリアが最適であるのか、武田隆氏の[『ソーシャルメディア進化論』(2011年、ダイヤモンド社)]に細かく論述されているので、氏の論述に導かれながら順を追って見てみよう。
1.「現実世界」のソーシャルメディア(例:Facebook 、mixi、Twitter等)
・実名性が高く、知り合い以外とコミュニケーションをとることに大きなハードルが生まれる。
・企業の担当者がTwitterに登録し、つぶやくという手法は、担当者の疲弊が並大抵のものではない。発言があまり会社に偏れば消費者から引かれてしまうし、個人に寄り過ぎれば成果から離れていってしまう。
これらは、個人による個人のためのメディアである。企業がつながることはそもそも難しい。
このエリアのソーシャルメディアを企業が有効活用するには、あまり双方向を意識せず、メルマガのようにプッシュ型の配信情報に徹する形が適している。
2.「情報交換」のソーシャルメディア(例:2ちゃんねる、Yahoo掲示板、カカクコム、アットコスメ等)
・利便性や、有効性が求められ、情報提供をすぐれて行う者が評価され、自社を特別視して欲しいという企業の姿勢は敬遠される。
・消費者による消費者のための聖域であり、振る舞いを間違えて企業のプロモーション施策が炎上した例は枚挙にいとまがない。
このエリアに企業が直接影響を与えることは出来ないと潔くあきらめるのが賢明だろう。
3.「価値観・関係構築」のソーシャルメディア(企業コミュニティ、ネットワークゲーム、パソコン通信)
・趣味や想いを中心に集まるエリアなので、互いに特別であろうとすることが求められ、企業による「私たちと特別な関係になってください」という呼びかけにも拍手が起こる。
・企業という集合体そのものが、企業文化や事業活動への共感を基にした、価値観のだといえる。何気ない社内のルールや活動が、消費者に意外と感動や共感を呼ぶ。
・このエリアでは、価値観で繋がる和の集合が思いやり空間を作り、自由な発話し合う関係構築の場をつくる。
論述によると、3のエリアこそが、企業コミュニティを構築するにあたり、最適なメディアであるという。
一方で気をつけなければならない点として、企業の担当者が個人で表に出ていくような真似をせず、ファンが集う場をつくり、そこを運営することに徹する必要があるそうだ。
とはいえ、基本的にはコミュニティの自由な対話の流れに任せながらも、コミュニティのメンバーを知り、積極的にメンバーとコミュニケーションを図り、ゲームやキャンペーン等で、彼らの目的を達成させ、価値のあるコンテンツを提供する必要がある。
このさじ加減が難しいが、コミュニティの活性化は従来のようにページビューなどでは結果が見えないので、いかにコミュニティに深く関与したかどうかが成功の鍵となる。
コミュニティのマーケティングは短期間で結果が出る魔法の杖ではないのだ。
企業コミュニティを開設するにあたり、最適なエリアは見えてきた。
しかし、消費者に自由な投稿をさせて本当に大丈夫なのだろうか?誹謗中傷が多発するのではないか?と心配する企業は当然多い。
とはいえ、ネットでの情報をコントロールすることは不可能といっていい。
それでも、自社のコミュニティを運営する上で、「荒れ」を回避することは必要不可欠であろう。
「荒れ」への対処法について再び、武田氏の書籍[『ソーシャルメディア進化論』(2011年、ダイヤモンド社)]に導かれてみると、
・登録制にし、投稿者を特定。トラブルが発生した際にはその投稿者に対し、記事の削除や投稿者を退会させるといった対処が可能な規約を定めて対応。
・全てに目が行き届く小さな規模からスタートする。
という形をとり、万が一の対処は自社でコントロールする事が可能な仕組みを確立し、担当者の目の届く規模にすることで、十分対処が可能だそうだ。
一方で、氏によると「罰則的な対処よりもコミュニティから生まれる「空気」によるものの方が強い」ことがわかってきたという。
いかにも自身で企業コミュニティの立ち上げに数多く携わった氏ならではのコメントだが、具体的に言うと、趣旨と異なる書き込み、または攻撃的な書き込みが投稿された場合、常連の利用者達が、「ここはそういう場所ではありませんよ」と注意してくれるのだという。
これは企業コミュニティに限らず、私が趣味で利用している有料のサッカーサイトの掲示板でも、このような例を何度か見たことがある。
実際、警察への通報など厳しい縛りを設け、何度か通報を実行したことを告知して荒れに対して非常に厳しい抑制力を行使し対処している無料のサッカーの掲示板と比べても、その有料掲示板は誹謗中傷自体が非常に少ない。
話を戻して、このような空気を醸し出すのに必要な点としては、
1.投稿者に趣旨に賛同してもらうこと、
2.投稿者のコミュニティを趣味やその発言の影響力ごとに分析し、コアな投稿者及びそのグループとコミュニケーションを積極的に取ること
の2点が重要であろう。
実際のコミュニティでのやり取りを目にした上層部から「消費者は思ったより怖くない」と感じてもらえ、ルールの緩和を支持されることも多くなったという。
社内のアレルギー反応が鎮まるのに合わせて、コミュニティの規模を拡大し、ルールの縛りをゆっくり緩めながら活性の方向に舵を切っていく。と段階を踏みながら企業コミュニティを活性・拡大させてく方法が最も理想的といえるだろう。